hohoemi 15-4 of 広小路クリニック



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NO15-4『迷いながらの決意』

 要介護度5 被介護者 母90歳  介護者 娘58歳

7月26 日
「お母さん !」と、呼びかけながら私は母の部屋へと入っていく。

母は表情を変えることなく、ただじっと私を見つめる。

まるで知らない人が自分の部屋に入って来たかのように・・・。

そんな表情を見るのが、なんだか哀しくて

「お母さん、私のこと『誰かなぁー』って思っているよね?」と、

話しかけてみるけれど、やっぱり母の表情に反応はない。

ただ私の顔をじっと見つめている。

私はいつものように、母の手や足を擦りながら、ひとり勝手に色々なことを

話しかける。ひとつひとつ遠い思い出の中へと浸りながら。


7月30日
母は遅い昼食を摂っている。

若い男のスタッフがスプーンにゼリー状の物を載せて母の口元に運んでいる。

母は堅く口を閉じたままビクとも動かない。どこに焦点を合わせることもなく、

ただぼんやりと虚空を見つめている。

私が呼びかけても返事もせず、何の反応も示してくれない。

「最近は、いつもこんな感じですか?」と、敢えて私は訊ねてみる。

若いそのスタッフは申し訳なさそうに黙ったまま縦に首を振る。

そう、もう90歳だものね。仕方ないのかなぁと、私はつぶやくように言う。

会う度に、弱く、小さく、遠くなっていく母の姿を眺めていると、

ただ見守っているより他ない諦めと寂しさの気持ちで一杯になる。



認知症になってからの母の人生は、私が代わりに決断しているようなものだ。

ひとつひとつの決断は母が望んだものではなく、私が決断したものだ。

それもまた私には憂うつな疑問のように捉えどころがない。

母なら 様々な場面をどのように選択してきただろうか?
私と同じように考えただろうか?
繰返し問い、繰り返し反省し、繰り返し罪の意識に駆られる。

「これでよかった?本当にこれでいい?」って何度も母に訊ねる。

『ほほえみの会』でも、他の家族が言っていた。
「度々罪の意識に駆られることがあります」と。
私もまた、やはり皆と同じように罪の意識を感じている。

そう思うと何故か少し重荷がおりたような気持ちになる。
誰しも通る道なのだと。

私に今出来ることをしようと思う。

また今度、また今度。一度一度の面会を愛おしみながら、

会う度に、何度も繰り返し言おうと思う。

母の顔を見つめ、身体を擦りながら言おうと思う。

「お母さん、私は最後までずっと側にいるからね」と。